利休百首一覧
利休百首一覧
1から10
その道に 入らんと思う 心こそ 我が身ながらの 師匠なりけれ
ならひつつ 見てこそならへ ならはずに 良し悪しいふは 愚かなりけり
こころざし 深き人には いくたびも あはれみ深く 奥ぞ教ふる
はぢを捨て 人に物とひ ならふべし これぞ上手の もといなりける
上手には すきと器用と 功積むと この三つそろふ 人ぞよくしる
点前には 弱みを捨てて ただ強く されど風俗 いやしきを去れ
点前には 強みばかりを 思うなよ 強きは弱く 軽く重かれ
何にても 道具扱う たびごとに 取る手は軽く 置く手重かれ
何にても 置き付け変える 手離れは 恋しき人に わかるると知れ
点前こそ 薄茶にあれと 聞くものを そそうになせし 人はあやまり
11から20
薄茶には 点前を捨てて 一筋に 服の加減と 息をもらすな
濃茶には 湯加減熱く 服は尚ほ 泡なきように かたまりもなく
とにかくに 服の加減を 覚ゆるは 濃茶たびたび 点ててよくしれ
よそにては 茶を汲みて後 茶杓にて 茶碗のふちを 心して打て
中継ぎは 胴を横手に かきて取れ 茶杓は直に おくものぞかし
棗には 蓋半月に 手をかけて 茶杓を円く 置くとこそ知れ
薄茶入れ 蒔絵彫り物 文字あらば 順逆覚え 扱うと知れ
肩衝は 中継ぎとまた 同じこと 底に指をば かけぬとぞ知れ
文琳や 茄子丸壺 大海は 底に指をばかけてこそ持て
大海を あしらふ時は 大指を 肩にかけるぞ習いなりける
21から30
口広き 茶入れの茶をば 汲むという 狭き口をばすくふとぞいう
筒茶碗 深き底より 拭き上り 重ねて内へ手をやらぬもの
乾きたる 茶巾使わば 湯は少し こぼし残して あしらふぞよき
炭置くは たとへ習いに そむくとも 湯のよくたぎる 炭は炭なり
客になり 炭つぐならば そのたびに 薫物などは くべぬことなり
炭つがば 五徳挟むな十文字 縁をきらすな 釣り合いを見よ
燃え残る 白炭あらば 捨ておきて また余の炭を 置くものぞかし
崩れたる その白炭を 取り上げて 又たきそへる ことはなきなり
炭置くも 習いばかりに かかわりて 湯のたぎらざる 炭は消え炭
風炉の炭 見ることはなし 見ると絵も 見ぬこそ猶も 見る心なれ
31から40
客になり 風炉の其のうち 見るときに 灰崩れなん 気遣いをせよ
客になり 底取るならば いつにても 囲炉裏の角を 崩しつくすな
墨蹟を かけるときには たくぼくを 末座のほうへ 大方はひけ
絵のものを かけるときには 啄木を 印あるほうへ 引きおくもよし
絵掛物 左右向き 無か不向き 使うも床のかってにぞよる
掛物の 釘打つならば 大輪より 九分下げて打て 釘も九分なり
床にまた 和歌の類をば掛けるなら 外に歌書をば かざらぬと知れ
外題ある ものを余所にて 見るときは まず外題をば見せてひらけよ
品々の 釜によりての名は多し 釜の総名 かんすとぞいう
冬の釜 囲炉裏縁より 六七分 高く据えるぞ 習いなりける
41から50
姥口は 囲炉裏ふちより 六七分 低く据えるぞ 習いなりける
置き合わせ 心をつけて 見るぞかし 袋は縫い目畳目に置け
運び点て 水指置くは 横畳 二つ割にて 真ん中に置け
茶入れ又 茶筅のかねを よくも知れ あとに残せる 道具目当てに
水指に 手桶出さば 手は横に 前の蓋取り 先に重ねよ
釣瓶こそ 手はたてに置け 蓋取らば 釜に近づく 方と知るべし
余所などへ 花をおくらば その花は 開きすぎしは やらぬものなり
小板にて 濃茶をたてば 茶巾をば 小板の端に 置くものぞかし
喚鐘は 大と小とに中中に大と五つの 数をうつなり
茶入れより 茶掬うには 心得て 初中後すくへ それが秘事なり
51から60
湯を汲むは 柄杓に心 つきの輪の そこねぬように 覚悟して汲む
柄杓にて 湯を汲むときの 習いには 三つの心得 あるものぞかし
湯を汲みて 茶碗に入るる その時の 柄杓のねじは 肘よりぞする
柄杓にて 白湯と水とを汲む時は 汲むと思はじ持つと思はじ
茶を振るは 手先を振ると 思うなよ ひじよりふれよそれが秘事なり
羽箒は 風炉に右羽よ 炉の時は左羽をば 使うとぞしる
名物の 茶碗出でたる 茶の湯には 少し心得 かはるとぞ知れ
暁は 数寄屋のうちも 行燈に 夜会などには 短径を置け
ともしび 陰と陽との二つあり あかつき陰に よひは陽なり
燈火に 油をつがば 多くつげ 客にあかざる 心得と知れ
61から70
いにしへは 夜会などには 床の内 掛物花はなしとこそ聞け
炉のうちは 炭斗瓢 柄の火箸 陶器香合 ねり香と知れ
風炉の時 炭は菜籠に かね火箸 ぬり香合に 白檀をたけ
いにしへは 名物などの香合へ 直ちにたきもの 入れぬとぞきく
蓋置に 三つ足あらば 一つ足 まへにつかふと 心得ておけ
二畳台 三畳台の 水指は まづ九つ目に 置くが法なり
茶巾をば 長み布はば一尺 横は五寸のかね 尺としれ
帛紗をば 堅は九寸 よこ巾は 八寸八分 曲尺にせよ
薄板は 床かまちより 十七目 または十八十九目に置け
薄板は 床の大小 また花や 花生けによりかはるしなしな
71から80
花入れの 折れ釘打つは 地敷居より 三尺三寸 五分余りもあり
花入れに だいしょうあらば 見合わせよ かねをはずして 打つがかねなり
竹釘は 皮目を上に うつぞかし 皮目を下に なすこともあり
三つ釘は 中の釘より 両脇と 二つわりなる 真ん中に打て
三幅の 軸をかけるは 中をかけ 軸さきをかけ 次は軸もと
掛物を かけて置くには 壁付きを 三四分すかし おくことときく
時ならず 客の来たらば 点前をば 心は草に わざをつつしめ
花見より かへりの人に 茶の湯せば 花鳥の絵をも 花も置くまじ
釣舟は 鎖の長さ 床により 出船入船 浮船と知れ
壺などを 床に飾らん 心あらば 花より上に かざり置くべし
81から90
風炉濃茶 必ず釜に水差すと 一筋に思う 人はあやまり
右の手を 扱う時は わが心 左のほうに あるとしるべし
一点前 点てるうちには善悪と 有無の心の わかちをも知る
なまるとは てつづき早く 又おそく ところどころのそろはぬをいう
点前には 重きを軽く 軽きをば 重く扱う 味わいを知れ
盆石を 飾りし時の 掛物に 山水などは さしあひとしれ
板床に 葉茶壷茶入れ 品々を かざらで かざる 法もありけり
床の上に 籠花入れを 置くときは 薄板などは しかぬものなり
掛物や 花を拝見する時は 三尺ほどは 座をよけてみよ
稽古とは 一より習い 十を知り 十よりかえる もとのその一
91から100
茶の湯をば 心に染めて 眼にかけず 耳をひそめて 聞くこともなし
目にも見よ 耳にもふれよ 香を嗅ぎて ことを問いつつ よく合点せよ
習いをば ちりあくたぞと 思へかし 書物は反故 腰張りにせよ
茶を点てば 茶筅に心 よくつけて 茶碗の底へ 強く当たるな
水と湯と 茶巾茶筅に 箸楊枝 柄杓と心 あたらしきよし
茶はさびて 心はあつく もてなせよ 道具はいつも 有り合わせにせよ
釜一つ あれば茶の湯は なるものを 数の道具を 持つは愚かな
数多く ある道具をも 押し隠し 無きがまねする 人も愚かな
茶の湯には 梅寒菊に 黄葉み落ち 青竹枯木 あかつきの霜
茶の湯とは ただ湯をわかし 茶を点てて 飲むばかりなる 事と知るべし
101から102
もとよりも なきいにしへの 法なれど 今ぞ極める 本来の法
規矩作法 守りつくして 破るとも 離るるとても 本を忘るな
参考